

【専門診療】中津 院長
【担当科目】総合診療科・神経科・腫瘍科
今回は犬さんや猫さんの「馬尾(ばび)症候群」という病気についてお話しします。
「馬尾」という言葉、あまり聞き慣れないかもしれませんね。私たちの体もそうですが、背骨の中を通っている太い神経(脊髄)は、腰のあたりで細い神経の束に分かれます。この神経の束が、馬のしっぽのように見えることから「馬尾」と呼ばれています。
馬尾症候群とは、この腰からしっぽにかけての神経が何らかの原因で圧迫され、痛みや麻痺などの様々な症状を引き起こす病気です。
目次
1. 疫学(どんな子がかかりやすいの?)
馬尾症候群は、圧倒的に犬さんで多く見られ、猫さんでは比較的まれな病気です。
- 好発犬種: ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなどの中〜大型犬に多く見られます。
- 好発年齢: 主に中高年(5〜8歳以上)で発症しやすい傾向があります。
- 性別: 統計的には、オスの方がメスよりも発症リスクがやや高いと言われています。
- 猫の場合: 非常にまれですが、外傷(交通事故など)や腫瘍が原因で発症することがあります。
2. 原因(なぜ起こるの?)
馬尾が圧迫される原因は様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 変形性脊椎症・骨軟骨症: 加齢に伴い、背骨の関節が変形したり、靭帯が分厚くなったりすることで、神経の通り道(脊柱管)が狭くなります(これを「変性性腰仙部狭窄症」とも呼びます)。
- 椎間板ヘルニア: 腰のあたりの椎間板が飛び出し、神経を圧迫します。
- 先天的な奇形: 生まれつき腰の骨の構造に異常がある場合です。
- 外傷: 骨折や脱臼など。
- 腫瘍: 骨や神経の周りにできた腫瘍による圧迫。
- 感染/炎症: 椎間板炎など。
3. 症状(どんなサインに気をつければいい?)
初期症状は「なんとなく痛そう」「元気がない」といった漠然としたものが多いため、飼い主様が「歳のせいかな」と見過ごしてしまうことも少なくありません。以下のようなサインを見逃さないことが大切です。
- 痛みのサイン: 腰やしっぽの付け根を触ると嫌がる、鳴く。立ち上がる時に「キャン」と鳴く。
- 運動を嫌がる: 散歩に行きたがらない、階段の昇り降りやソファへのジャンプをためらう。
- 歩き方の異常(跛行): 後ろ足をかばうように歩く、足先を擦って歩く(爪の甲側が削れることがあります)。
- しっぽの異常: しっぽがだらんと下がったままになっている、振らなくなる。
- 重症化すると(排泄障害): 自力でウンチやおしっこができなくなる(失禁、または出なくなる)。ここまで進行すると、非常に危険なサインです。
4. 診断(どうやって見つけるの?)
診断には、詳しい身体検査と画像検査が不可欠です。
- 神経学的検査: 歩き方の観察や、足先の反射、腰やしっぽの付け根を触ったときの痛みの反応(知覚過敏)などを確認します。
- レントゲン検査: 骨の変形や異常、関節の不安定性を確認します。ただし、レントゲンでは神経そのものは写りません。
- MRI検査・CT検査: 確定診断に最も重要です。神経の圧迫の程度や、椎間板の飛び出し方、腫瘍の有無などを正確に把握するために行います。全身麻酔が必要になります。
5. 治療(どんな治療法があるの?)
症状の重さや原因によって、内科的治療か外科的治療かを選択します。
内科的治療(保存療法)
軽度な痛みのみで、歩行異常や排泄障害がない場合に選択されます。
- 徹底した安静(ケージレスト): これが最も重要です。ジャンプや階段は厳禁です。
- お薬の投与: 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)やステロイド剤、神経障害性疼痛に効く薬などを用いて、痛みと炎症を抑えます。
- リハビリテーション/レーザー治療: 痛みの緩和や筋肉の維持を目的とします。
外科的治療(手術)
痛みが内科的治療でコントロールできない場合や、すでに麻痺や排泄障害が出ている場合、あるいは神経の圧迫が非常に強い場合に適応となります。
- 背側椎弓切除術など: 圧迫している骨や靭帯、飛び出した椎間板を取り除き、神経の通り道を広げる(減圧する)手術を行います。不安定な場合は、金属のピンなどで骨を固定する手術(固定術)を併用することもあります。
6. 予後(治るの?)
予後は、「どの段階で治療を開始できたか」に大きく左右されます。
- 痛みや軽度のふらつき程度の段階で適切な治療(手術を含む)を行えば、多くの子が元の生活に近い状態まで回復し、予後は良好です。
- しかし、排泄障害(おしっこやウンチが自力でできない状態)が出てから時間が経過してしまうと、手術を行っても神経の機能が完全には回復せず、生涯にわたって介護(圧迫排尿など)が必要になる可能性が高くなります。
7. 予防(気をつけられることは?)
加齢による骨の変形などを完全に防ぐことは難しいですが、日常生活で腰への負担を減らすことが予防に繋がります。
- 適正体重の維持: 肥満は腰や関節にダイレクトに負担をかけます。食事管理でスリムな体型を保ちましょう。
- 生活環境の工夫: フローリングなど滑りやすい床にはマットを敷く、ソファやベッドなどの段差にはスロープを設置するなど、腰に負担のかからない環境作りが大切です。
- 適切な運動: 筋肉を維持するための適度な運動は必要ですが、フリスビーなどの急なジャンプやダッシュ、過度な階段の昇り降りを繰り返す遊びは控えた方が無難です(特に大型犬)。
おわりに
馬尾症候群は、シニア期のわんちゃんの生活の質(QOL)を大きく下げてしまう病気です。「最近、後ろ足が弱ってきたな」「しっぽが下がっているな」と感じたら、決して自己判断せず、早めに動物病院にご相談ください。早期発見・早期治療が、愛犬・愛猫の健やかなシニアライフを守るカギとなります。
ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制
セカンドオピニオン設置
神経症状に対して迅速な対応を行います。
必要な検査として神経学的検査(反応・歩様など)、血液検査、CT(脳構造評価)、(理想的には)脳波検査、CSF(髄液)検査、MRI検査を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
特に「けいれん」「発作」「失神」などのケースでは、的確な診断が非常に重要です。
また、専門診療の神経科(中津 央貴獣医師)を設けているため、セカンドオピニオン、さらには繰り返すけいれん発作など、治りが悪い症状の受け入れを行っております。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
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