
【循環器診療】森山 寛大
【担当科目】総合診療科・循環器科
【循環器診療】佐藤 貴紀
【担当科目】総合診療科・循環器科・栄養管理科
目次
肺高血圧症とは?
心臓(右心室)から肺へと血液を送る血管を「肺動脈」と呼びます。この肺動脈の血圧が異常に高くなってしまう状態が、肺高血圧症です。
血圧が高い状態が続くと、血液を送り出す右心室に強い負担がかかり、最終的には心臓が力尽きて「右心不全(うしんふぜん:全身に水が溜まるなどの重い症状)」を引き起こし、命に関わります。
1. 疫学(どんな犬さんに多いの?)
肺高血圧症自体は特定の犬種に限定されるものではありませんが、「原因となる病気」にかかりやすい犬種で多く見られます。
- 年齢: 中高齢の犬さん(7歳以上〜)に多く見られます。
- 犬種: チワワ、ポメラニアン、トイ・プードル、マルチーズ、キャバリアなどの小型犬。これらの犬種は、肺高血圧症の最大の原因となる「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう:左心室の弁がうまく閉まらなくなる病気)」や「気管虚脱(きかんきょだつ:空気の通り道が潰れてしまう病気)」を起こしやすいためです。
2. 主な原因(なぜ起こるの?)
犬さんの肺高血圧症は、単独で発生することは稀で、別の病気が原因で引き起こされる(二次性)ことがほとんどです。獣医学では、原因によって以下のグループに分類して考えます。
| 分類 | 主な原因 | 獣医師の解説 |
| 左心系の病気 | 僧帽弁閉鎖不全症など |
犬さんで最も多い原因です。 左心室の働きが悪くなると、血液が肺に渋滞してしまい、肺の血圧が上がります。
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| 呼吸器の病気 | 気管虚脱、肺線維症、肺炎など |
肺に十分な酸素が取り込めない状態(低酸素)が続くと、肺の血管がキュッと縮んでしまい、血圧が上がります。
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| 肺の血栓(塞栓症) | 肺血栓塞栓症(PTE) |
肺の血管に血の塊(血栓)が詰まり、血液が流れにくくなることで圧が上がります。
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| 寄生虫感染 | 犬糸状虫症(フィラリア症) |
フィラリアの成虫が肺動脈や右心室に寄生することで、物理的に血液の流れを邪魔したり、血管を傷つけたりします。
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3. 症状(飼い主様が気づくサイン)
初期段階では無症状のことも多いですが、進行すると以下のようなサインが見られます。「ただの老化かな?」と見過ごさないことが大切です。
- 運動不耐性: 散歩に行きたがらない、すぐに座り込む、少し動いただけで息上がる。
- 呼吸器症状: 安静にしていても呼吸が早い、乾いた咳(カハッ、ケーンという音)が出る。
- チアノーゼ: 血液中の酸素が不足し、舌や歯茎が青紫色になる状態。
- 失神(気絶): 興奮した時や咳き込んだ直後に、バタッと倒れて数秒〜数十秒意識を失う。これは脳への血流が一時的に不足するためで、非常に危険なサインです。
- 腹水: 進行して右心不全になると、お腹に水が溜まり、太ったように見えたりします。
4. 診断(動物病院で行う検査)
身体検査(聴診で心雑音を確認)に加え、以下のような画像検査を組み合わせて診断します。
- 心エコー(超音波)検査: 診断の主役です。心臓の動きやサイズ、血液の逆流のスピードを測定することで、肺動脈の圧力を推定します。右心室が無理をして分厚くなっている様子なども確認できます。
- 胸部X線(レントゲン)検査: 心臓の拡大(特に右側)や、肺動脈が太くなっている様子、また原因となっている肺の病気がないかを確認します。
- 血液検査(バイオマーカー): 心臓に負担がかかると数値が上がる「NT-proBNP」などを測定し、重症度の参考にします。
5. 治療(どうやって治すの?)
一度高くなってしまった肺動脈圧を完全に正常に戻すことは難しいため、治療の目的は「症状を和らげ、生活の質(QOL)を保ちながら、進行を遅らせること」になります。
- 基礎疾患の治療: 最も重要です。僧帽弁閉鎖不全症が原因なら強心薬や利尿薬を、呼吸器疾患なら気管支拡張薬や抗炎症薬を使用します。
- 肺血管拡張薬の投与: 肺の血管を広げて血圧を下げるお薬です。代表的なものにシルデナフィル(バイアグラの主成分と同じですが、動物では血管拡張目的でよく使われます)や、ピモベンダンなどがあります。
- 酸素療法: 呼吸が苦しくチアノーゼが出ている場合は、酸素室に入院して状態を安定させます。ご自宅用に小型の酸素濃縮器をレンタルしていただくこともあります。
6. 予後(今後の見通し)
予後は「何が原因で肺高血圧症になっているか」と「発見時の重症度」に大きく左右されます。
初期に発見し、適切なお薬でコントロールできれば、何年も穏やかに過ごせる子もたくさんいます。しかし、失神を繰り返すような重度な状態や、すでに右心不全(お腹に水が溜まるなど)を起こしている場合は、非常に厳しい状況(数ヶ月単位の寿命となること)も少なくありません。
7. 予防(飼い主様にできること)
肺高血圧症そのものを予防するワクチンなどはありませんが、「原因となる病気を防ぐ・悪化させないこと」が最大の予防になります。
- 確実なフィラリア予防: 月に1回のお薬で100%防げる原因です。投薬期間は必ず守りましょう。
- 定期的な健康診断: 聴診による心雑音のチェックは、早期発見の第一歩です。特に小型犬がシニア期(7歳〜)に入ったら、半年に1回は健診を受けましょう。
- 体重管理と環境整備: 肥満は心臓と呼吸器の大きな負担になります。また、気管虚脱を防ぐため、首輪ではなくハーネスを使用し、夏場は涼しい環境を保ちましょう(パンティングによる負担を減らすため)。
最後に
「最近、散歩ですぐに立ち止まるようになったな」と思ったら、年齢のせいだと決めつけず、動画を撮って動物病院でご相談ください。早期に発見し、心臓のサポートを始めてあげることが、愛犬と1日でも長く穏やかな時間を過ごすための鍵となります。
ハグウェル動物総合病院の体制
セカンドオピニオン設置
今回の咳か、くしゃみか、逆くしゃみかの判断がわからないケースなど、的確な診断が必要な場合は、ハグウェル動物総合病院の循環器科をご予約ください。症状に対して迅速な対応を行います。
必要な検査として身体検査、血液検査、心エコー検査、レントゲン検査、心電図検査、血圧検査などを実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
早期発見をしながら、どのタイミングで、どの投薬が望ましいのか、循環器認定医としっかり相談し決定することをお勧めいたします。
また、専門診療の循環器科(森山 寛大 獣医師・佐藤 貴紀 獣医師)を設けているため、セカンドオピニオンの受け入れも行っております。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
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