

【専門診療】中津 院長
【担当科目】総合診療科・神経科・腫瘍科
目次
犬猫さんの「肛門嚢アポクリン腺癌」について
日々診察をしていると、トリミング中のチェックや日常のスキンシップ、あるいは「最近水をよく飲む」「ウンチが出にくそう」といった主訴から、お尻周りのしこりが見つかることがあります。
今回は、犬猫さんのお尻にできる悪性腫瘍の一つ、「肛門嚢(こうもんのう)アポクリン腺癌」について、どのような病気なのか、見逃さないためのポイントを含めて詳しく解説します。
1.疫学(どんな子になりやすいの?)
肛門嚢アポクリン腺癌は、犬さんでの発生が比較的多く、猫さんでは非常に稀な腫瘍です。 主に中高齢の犬さん(平均年齢9〜11歳)に多く見られます。かつてはメスに多いとされていましたが、現在ではオス・メスともに発生率に大きな差はないと考えられています。犬種としては、イングリッシュ・コッカー・スパニエルなどの特定の犬種で発生リスクが高いことが知られていますが、柴犬やミニチュア・ダックスフンドなど、あらゆる犬種で発生する可能性があります。
2.原因(なぜできるの?)
残念ながら、肛門嚢アポクリン腺癌がなぜ発生するのか、明確な原因はまだ解明されていません。 特定の犬種に多いことから遺伝的な背景が関与している可能性は示唆されていますが、食事や生活環境、去勢・避妊手術の有無などが直接的な原因になるという明確な証拠は現在のところ見つかっていません。
3.症状(どんなサインがある?)
初期段階では無症状のことが多いのがこの病気の特徴です。進行すると、以下のような症状が現れます。
- 局所の症状: お尻(肛門の斜め下あたり)が腫れる、しきりにお尻を舐める・床にこすりつける、ウンチが細くなる、排便時にいきむ・痛がる。
- 高カルシウム血症による症状: この腫瘍は特殊なホルモンに似た物質(PTHrP)を分泌し、血液中のカルシウム濃度を異常に上げてしまうことがあります(随伴症候群)。これにより、多飲多尿(水をたくさん飲み、おしっこの量が増える)、食欲低下、嘔吐、元気消失、筋肉のピクつきなどが起こります。実は、お尻の腫れよりも先にこの症状で来院され、病気が発覚するケースも少なくありません。
4.診断(どうやって見つけるの?)
診断は以下のステップを組み合わせて行います。
- 直腸検査(触診): 肛門から指を入れ、肛門嚢のしこりの有無や大きさ、固さを確認します。
- 細胞診(FNA): しこりに細い針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で悪性腫瘍の疑いがあるかを確認します。
- 血液検査: 高カルシウム血症が起きていないか、腎臓などの他の臓器に負担がかかっていないかを調べます。
- 画像診断(エコー、レントゲン、CTなど): この腫瘍は腰の奥にあるリンパ節(腰下リンパ節)や肺に転移しやすいため、全身への広がり(ステージング)を正確に評価するためにCT検査が非常に重要になります。
5.治療(どんな治療法がある?)
状態や進行度に合わせて、以下の治療を単独または組み合わせて行います。
- 外科手術: 腫瘍そのもの(原発巣)と、転移している場合は腰下リンパ節の摘出を行います。腫瘍を取り除くことで、高カルシウム血症の改善も期待できます。ただし、お尻周りには排便をコントロールする重要な神経や筋肉があるため、慎重な手術が求められます。
- 内科治療(抗がん剤・分子標的薬): 手術による完全切除が難しい場合や、すでに転移がある場合、あるいは手術後の再発予防として使用されます。カルボプラチンなどの抗がん剤や、トセラニブ(パラディア)といった分子標的薬が選択肢となります。
- 放射線治療: 腫瘍が大きすぎて手術ができない場合や、手術で取りきれなかった細胞を叩くために局所的に放射線を照射します。
- 対症療法: 高カルシウム血症が深刻な場合は、命に関わるため、まずは点滴や利尿剤、カルシウムを下げるお薬を使って全身状態を安定させる治療を最優先で行います。
6.予後(これからの見通しは?)
予後(治療後の経過の見通し)は、発見時の腫瘍の大きさ、リンパ節や肺への転移の有無、高カルシウム血症の有無に大きく左右されます。 早期に発見され、手術で綺麗に取り切れた場合は長期生存が十分に望めます。一方で、発見時にすでに遠隔転移がある場合や腫瘍が巨大化している場合は厳しい見通しになることもありますが、外科手術や抗がん剤をうまく組み合わせることで、良好な生活の質(QOL)を保ちながら長生きしてくれるケースも増えています。
7.予防(どうすれば防げる?)
明確な原因がわかっていないため、確実な予防法はありません。だからこそ、早期発見・早期治療がすべてと言っても過言ではありません。
- 定期的な健康診断(触診や血液検査を含む)を受けること。
- トリミングサロンや動物病院で、定期的に肛門腺絞りをしてもらい、プロの手でしこりの有無をチェックしてもらうこと。
- 日常的に愛犬・愛猫のお尻周りの見た目に変化がないか、排便の様子がおかしくないか、お水の量が増えていないかを観察すること。
これらが最大の「防御策」となります。
8.まとめ
肛門嚢アポクリン腺癌は、決して珍しくない悪性腫瘍ですが、初期症状に乏しいため飼い主様がご自宅だけで気づくのは難しい病気です。 「たかが便秘」「ただお水をよく飲むだけ」と自己判断せず、少しでも普段と違う様子があれば、お早めにかかりつけの動物病院にご相談ください。定期的なお尻のチェックと健康診断を通して、大切なご家族の健康を一緒に守っていきましょう。
ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制
セカンドオピニオン設置
ハグウェル動物総合病院では、腫瘍疾患に直面した飼い主様と動物さんに、より良い選択をしていただけるよう セカンドオピニオン外来 (専門診療の腫瘍科、中津 央貴獣医師)を設けています。
腫瘍は種類や進行度によって治療方法が大きく異なり、外科手術・化学療法・放射線治療・緩和ケアなど多様な選択肢があります。そのため、診断や治療方針について複数の視点から検討することが大切です。
当院ではCTなどの高度画像診断を用い、腫瘍の性質や広がり、転移の有無を的確に把握したうえで、専門的な知見をもとに治療方針をご提案いたします。セカンドオピニオンを通じて、飼い主様が納得し、安心して治療に臨んでいただけることを第一に考えています。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
ご予約・ご相談はお気軽に!
LINE・お電話(045-442-4370)・受付(動物病院総合受付)にて承ります♪

