

【専門診療】中津 院長
【担当科目】総合診療科・神経科・腫瘍科
愛犬や愛猫がシニア期に入ると、日々のちょっとした変化が気になることも多いと思います。「最近、怒りっぽくなった」「ぐるぐる同じ場所を歩き回る」「突然けいれんを起こした」……。もしかすると、それは加齢のせいだけでなく、「脳腫瘍」という病気が隠れているサインかもしれません。
今回は、犬さんと猫さんの脳腫瘍について、疫学から予防まで、獣医師の視点で詳しく解説します。
目次
1. 疫学:どれくらい発生するの? なりやすい種類は?
脳腫瘍は、決して珍しい病気ではありません。特に高齢(7歳以上のシニア期)になると発生リスクが高まります。
腫瘍には、脳そのものの細胞や脳を覆う膜から発生する「原発性脳腫瘍」と、他の臓器のガンが脳に転移してきた「転移性脳腫瘍」があります。
- 犬さんの場合:
- 髄膜腫(ずいまくしゅ)とグリオーマ(神経膠腫)が多く見られます。
- 好発犬種: ゴールデン・レトリーバーやミニチュア・シュナウザーなどは髄膜腫が、フレンチ・ブルドッグ、パグ、ボストン・テリアなどの短頭種ではグリオーマが発生しやすい傾向があります。
- 猫さんの場合:
- 圧倒的に髄膜腫が多く、原発性脳腫瘍の半数以上を占めます。
- 10歳以上の高齢猫での発生が多く見られます。
2. 原因:なぜ脳腫瘍になるの?
残念ながら、現在の獣医学において脳腫瘍の明確な原因は解明されていません。 人間のガンと同様に、遺伝的な要因、加齢による細胞の変異、環境要因などが複雑に絡み合って発生すると考えられています。特定の犬種に多いことから、遺伝的な背景が強く関与していることは間違いありません。
3. 症状:見逃してはいけないサインとは?
脳腫瘍の症状は、腫瘍ができた「場所」と「大きさ」によって様々です。腫瘍が大きくなり、周囲の正常な脳を圧迫することで症状が現れます。以下の症状が見られたら、早めの受診をおすすめします。
- てんかん発作(けいれん): 脳腫瘍の最も代表的な症状です。今まで一度も発作を起こしたことがない高齢の犬猫さんが、突然けいれんを起こした場合は特に注意が必要です。
- 性格・行動の変化: 「怒りっぽくなった」「ぼーっとしている時間が増えた」「飼い主を認識できない」など、認知症と似た症状が出ることがあります。
- 運動器の異常:
- 旋回運動: 同じ方向にぐるぐると歩き回る。
- ふらつき・運動失調: まっすぐ歩けない、よく転ぶ。
- 不全麻痺: 足を引きずる、力が入らない。
- 視力の異常: 目は見えているはずなのに物にぶつかる。
4. 診断:どのように見つけるの?
「脳腫瘍かもしれない」と疑われた場合、以下のようなステップで診断を進めます。
- 神経学的検査: 反射や歩き方、目の動きなどを確認し、脳のどの部分に異常があるかを推測します。
- 血液検査・レントゲン・超音波検査: 転移性脳腫瘍でないか、全身麻酔に耐えられる健康状態かを評価します。
- MRI検査(確定診断に必須): 脳腫瘍の診断において最も重要な検査です。腫瘍の正確な位置、大きさ、広がりを鮮明な画像で確認します。CT検査が用いられることもありますが、脳などの軟部組織の評価はMRIが優れています。(※全身麻酔が必要です)
- 脳脊髄液検査: 脳炎などの他の病気を除外するために行うことがあります。
5. 治療:どのような選択肢があるの?
治療の目的は、「腫瘍を取り除く・小さくする(根治・延命)」ことと、「症状を和らげ、生活の質(QOL)を保つ(緩和)」ことの2つに分かれます。
| 治療法 | 概要と特徴 |
| 外科手術 |
腫瘍を直接摘出する方法。脳の表面近くにある「髄膜腫」などで適応になります。特に猫さんの髄膜腫は、手術で綺麗に取り切れることが多く、良好な経過が期待できます。
|
| 放射線治療 |
手術で取り切れない腫瘍や、脳の深部にある腫瘍に対して行います。腫瘍の増殖を抑え、サイズを縮小させる効果が期待できます。
|
| 化学療法(抗がん剤) |
脳には薬物を通過させないバリア(血液脳関門)があるため、一般的な抗がん剤は効きにくいですが、特定の腫瘍に対して有効な薬剤を使用する場合があります。
|
| 緩和ケア(内科治療) |
腫瘍そのものを治療するのではなく、症状を抑える治療です。脳のむくみを取るための「ステロイド剤」や、けいれんを抑える「抗てんかん薬」を使用し、穏やかな生活をサポートします。
|
※治療法は、ご家族の希望、動物の年齢や体力、腫瘍の種類によって総合的に判断します。
6. 予後:治療後の見通しは?
予後は、腫瘍の種類(悪性度)、できた場所、進行状況、選択した治療法によって大きく異なります。
- 犬さん: グリオーマなどの悪性度の高い腫瘍が脳の深部にある場合、予後は厳しくなる傾向があります。しかし、外科手術や放射線治療が奏功すれば、生存期間を大きく延ばすことが可能です。
- 猫さん: 多くを占める髄膜腫は良性であることが多く、脳の表面にできるため外科手術で摘出しやすい傾向があります。手術が成功すれば、術後数年にわたって良好な生活を送れることも少なくありません。
7. 予防:防ぐことはできるの?
残念ながら、脳腫瘍を確実に予防する方法は現在ありません。
だからこそ、「早期発見・早期治療」が何よりも重要になります。 特に7歳を過ぎたシニア期に入ったら、年に1〜2回の定期的な健康診断(血液検査だけでなく、神経学的なチェックも)をおすすめします。そして、日頃からスキンシップを兼ねて愛犬・愛猫の様子をよく観察し、「いつもと違うな」という直感を大切にしてください。
おわりに
「脳腫瘍」という診断は、ご家族にとって非常にショックで、不安なことと思います。しかし、獣医療の進歩により、以前よりも多くの治療選択肢が提案できるようになりました。
大切なのは、病気の状態を正しく理解し、愛犬・愛猫にとって、そしてご家族にとって「一番納得のいく治療法」や「過ごし方」を、かかりつけの獣医師と一緒に相談して決めていくことです。一人で抱え込まず、どんな些細なことでも獣医師にご相談ください。
ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制
セカンドオピニオン設置
神経症状に対して迅速な対応を行います。
必要な検査として神経学的検査(反応・歩様など)、血液検査、CT(脳構造評価)、(理想的には)脳波検査、CSF(髄液)検査、MRI検査を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
特に「けいれん」「発作」「失神」などのケースでは、的確な診断が非常に重要です。
また、専門診療の神経科(中津 央貴獣医師)を設けているため、セカンドオピニオン、さらには繰り返すけいれん発作など、治りが悪い症状の受け入れを行っております。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
ご予約・ご相談はお気軽に!
LINE・お電話(045-442-4370)・受付(動物病院総合受付)にて承ります♪

