
お散歩中やドッグランで遊んでいる時、あるいは家の中でソファから降りた瞬間……「キャン!」と鳴いて、愛犬・愛猫が急に後ろ足を着けなくなってしまった。そんな時、動物病院でよく診断されるのが「前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)」です。
これは、動物の整形外科疾患のなかでも非常に遭遇する頻度が高い病気の一つです。今回は、この病気がなぜ起こるのか、どうすれば治るのかを、獣医師の視点から詳しく解説します。
目次
疫学:どんな子になりやすいの?
前十字靭帯断裂は、犬さんで圧倒的に多く見られる疾患です。猫さんでも起こりますが、犬さんに比べると稀です。
- 好発犬種: ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ロットワイラー、秋田犬などの中〜大型犬に多いとされてきましたが、近年ではトイ・プードル、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンなどの小型犬でも非常に増えています。
- 年齢・性別: 中高齢(5〜7歳以上)での発生が多いですが、若齢で発症する子もいます。また、避妊・去勢手術を受けた子は、受けていない子に比べて発生率が高いというデータもあります。
- 体型: 肥満傾向にある子は、膝への負担が大きいためリスクが跳ね上がります。
原因:なぜ靭帯が切れてしまうの?
人間のスポーツ選手が靭帯を切る場合、激しいタックルやジャンプの着地失敗など「強い衝撃(外傷)」が原因であることがほとんどです。 しかし、犬さんの場合は少し異なります。犬さんの前十字靭帯断裂の多くは、「靭帯の加齢性変化(変性)」がベースにあります。
日々の生活の中で靭帯が少しずつ弱くなり(部分断裂)、ちょっと走ったり、段差を降りたりといった「些細なきっかけ」で、最終的にプツッと切れてしまう(完全断裂)のです。そのため、「特に激しい運動をしたわけではないのに切れた」と驚かれる飼い主様がとても多いのが特徴です。また、骨格的な特徴(脛骨の角度がきついなど)が原因で靭帯にストレスがかかりやすい子もいます。
症状:見逃してはいけないサイン
靭帯が切れると、膝の関節がグラグラになり、強い痛みと炎症を引き起こします。
- 突然の跛行(はこう): 後ろ足をケンケンして歩く、足を浮かせたまま着かない。
- お座りの異常: 膝を曲げるのを痛がるため、足を横に投げ出して座る(いわゆる「お姉さん座り」)。
- 症状の波: 切れた直後は痛みが強く足を着けませんが、数週間たつと少しずつ足を着いて歩くようになることがあります。しかし、これは治ったわけではありません。 関節の中では骨同士が擦れ合い、半月板(膝のクッション)を損傷したり、関節炎が進行したりしています。
診断:どうやって見つけるの?
動物病院では、以下のような方法で診断を下します。
- 触診・整形外科的検査: これが最も重要です。膝の関節を触り、前後にグラグラとズレないかを確認します(ドロワーサイン、脛骨圧迫テスト)。ただし、痛みが強い子や筋肉が緊張している子では、鎮静薬を使ってリラックスさせないと正確な検査ができないこともあります。
- レントゲン検査: 靭帯そのものはレントゲンには写りませんが、関節の中に水(関節液)が溜まっているサインや、関節炎の進行度合い、骨格の角度などを評価します。
- その他: 必要に応じて、超音波検査、関節鏡、MRI検査などが行われることもあります。
治療:切れた靭帯はどうする?
一度切れてしまった靭帯は、自然にくっつくことはありません。治療法は大きく分けて「保存療法」と「外科療法(手術)」があります。
- 保存療法(手術をしない方法)
- 内容: 厳格な体重管理、運動制限(安静)、消炎鎮痛剤の投与、サポーターの着用など。
- 適応: 麻酔のリスクが極めて高い高齢犬や持病がある子、一部の小型犬や猫さんなど。
- 注意点: 膝の不安定さは残るため、時間とともに必ず「変形性関節症(慢性的な関節炎)」が進行します。
- 外科療法(手術) 獣医学において、活動性を維持するためには手術が第一選択として推奨されます。
- 骨切り術(TPLOなど): 現在の世界的な主流です。スネの骨(脛骨)を丸く切り、角度を変えてプレートで固定することで、靭帯がなくても膝がズレないように生体力学的に構造を変える手術です。中・大型犬には特に推奨され、最近は小型犬でもこの手術が選ばれることが増えています。
- 関節外制動術(ラテラルスーチャー法など): 強い人工の糸を使って、切れた靭帯の代わりに膝を固定する方法です。小型犬や猫で選択されることがあります。
予後:また元気に走れるようになる?
適切な外科手術を行い、その後のリハビリテーションをしっかり行えば、予後は非常に良好です。多くの子が再び元気に走り回れるようになります。
ただし、注意すべき点が2つあります。 1つ目は、関節炎の進行です。手術をしても、切れたことによる関節炎の進行を完全にゼロにすることはできません。将来的に、冷えや疲労で軽い痛みを伴うことがあります。 2つ目は、反対側の足の断裂です。片方の靭帯が切れた子は、素因(変性や骨格)を両足に持っていることが多く、30〜50%の高い確率でもう片方の足の靭帯も切れてしまうと言われています。
予防:飼い主様にできること
完全に防ぐことは難しい病気ですが、リスクを減らすことは可能です。
- 体重管理(最重要!): 肥満は万病の元ですが、関節にとってはまさに百害あって一利なしです。適正体重を維持しましょう。
- 滑りにくい環境づくり: フローリングは犬や猫にとってスケートリンクの上を歩いているようなものです。滑り止めマットやカーペットを敷き、膝への負担を減らしましょう。
- 適度な運動: 急激な激しい運動を避け、日頃から適度な散歩などで後肢の筋肉量を維持し、関節をサポートさせることが大切です。
おわりに
前十字靭帯断裂は、愛犬・愛猫の生活の質(QOL)を大きく下げてしまう病気です。「足をケンケンしているけど、そのうち治るかな?」と自己判断で放置せず、歩き方に違和感を感じたら、できるだけ早くかかりつけの動物病院を受診してください。早期発見と適切な治療が、ふたたび元気に走るための第一歩です。
ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制
セカンドオピニオン設置
関節や骨などの症状に対して迅速な対応を行います。
整形疾患に必要な検査として、身体検査、レントゲン検査に加え、症状に応じて神経学的検査(反応・歩様など)、血液検査、CT検査(脳構造評価)、CSF(髄液)検査、を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
特に「手足を上げる」「ケンケンとスキップをする」「足を引きずる」などのケースでは、的確な診断が非常に重要です。
また、外部より整形外科専門の岩田 宗峻 獣医師を設けているため、セカンドオピニオン、さらには繰り返す症状などの受け入れを行っております。

横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
ご予約・ご相談はお気軽に!
LINE・お電話(045-442-4370)・受付(動物病院総合受付)にて承ります♪

