

【皮膚科専門診療】星野 友哉 獣医師
【担当科目】皮膚科
愛犬の毛が少しずつ薄くなってきた、地肌が黒ずんできた…でも、本人は痒がる様子もなく、ご飯もモリモリ食べて元気いっぱい。そんな時、獣医師が疑う病気の一つに「アロペシアX(Alopecia X)」があります。
聞き慣れない名前かもしれませんが、別名「毛周期停止」や「ポメラニアンの脱毛症」とも呼ばれるこの病気について、今回は獣医師の視点から詳しく解説いたします。
目次
1. 疫学:どんな子がかかりやすいの?
アロペシアXは特定の犬種に多く見られる傾向があります。
- 好発犬種: ポメラニアン、トイ・プードル、アラスカン・マラミュート、チャウ・チャウ、サモエド、シベリアンハスキーなどの北方犬種や、豊かな被毛を持つ(プラッシュコートの)犬種。
- 発症年齢:多くは1~3歳齢頃での発症を認めます。特にポメラニアンでは0歳や1歳といった若齢で発症する傾向がみられます。。
- 性差: オス・メスともに見られますが、未去勢・未避妊の犬にやや多い傾向があるとも言われています。
2. 原因:なぜ「X」という名前がついているの?
この病気の最大の特徴は「はっきりとした原因が分かっていない」ということです。そのため未知数を示す「X」が病名についています。
古くはホルモンの分泌異常、特に成長ホルモン不足などが原因と考えられてきましたが、冒頭に述べた通りアロペシアXでは体調不良がみられません。現在の獣医学では、ホルモンバランスの乱れ(性ホルモンや副腎皮質ホルモンなど)や、毛の成長サイクル(毛周期)が「休止期」のまま止まってしまう遺伝的な素因が複雑に絡み合っていると考えられています。
3. 症状:アロペシアXのサイン
アロペシアXには非常に分かりやすい特徴的な症状があります。
- 痒みを伴わない脱毛: アレルギーや感染症と違い、本人が痒がったりすることはありません。
- 左右対称に毛が抜ける: 胴体、首まわり、太ももの裏側、しっぽなどの毛が左右対称に薄くなります。脱毛は特に太ももの裏側や首から始まることが多いと言われています。
- 頭や四肢の毛は残る: 不思議なことに、頭部と足先の毛はフサフサのまま残ることがほとんどです。
- 皮膚の黒ずみ(色素沈着): 脱毛した部分の皮膚が時間の経過とともに黒ずんでくることが多いです。
- 全身状態は良好: 内臓の病気ではないため食欲や元気は普段通りです。
4. 診断:消去法で見つけていく「除外診断」
アロペシアXの診断で最も重要なことは、「他の病気を見逃さないこと」です。甲状腺機能低下症やクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)など、同じように「左右対称の脱毛」を起こすホルモン疾患を除外するため、血液検査やエコー検査などで念入りに調べます。
これらの重大な病気や皮膚の感染症などが「すべて無い」と確認できた場合(除外診断)に初めてアロペシアXと診断されます。必要に応じて、皮膚の一部を採取する「皮膚生検」を行い毛根の状態を確認することもあります。
5. 治療:治療をするかどうかも含めて選択肢
アロペシアXは美容上の問題(見た目の変化)であり、命や健康寿命に直接関わる病気ではありません。そのため、「あえて積極的な治療はせず、可愛いお洋服を着せて保温や紫外線対策をする」というのも立派な選択肢の一つです。
育毛を目的として以下のような治療を選択することがあります。いずれも反応には個人差が多く、治療の多くは「脱毛の進行を遅らせる」ことになります。
- 去勢・避妊手術: 未去勢・未避妊の場合、ホルモンバランスの変化によって育毛が促されることがあります。
- メラトニン: 睡眠ホルモンであるメラトニンのサプリメントが毛周期を刺激し発毛に繋がることがあります。サプリメントのため副作用が少なく安全性が高いのが利点です。
- マイクロニードル療法: 極細の針のローラー(マイクロニードル)を使い皮膚に傷を作ります。傷を修復するときに健康な皮膚が作られることで育毛が期待できます。、。痛みを伴うため全身麻酔をかける必要があります。
- 内服薬: 副腎皮質ホルモンの合成を抑えるお薬(トリロスタン)を使用することがあります。副作用のリスクがあるため、獣医師と慎重に相談する必要があります。一方、アドナ(止血剤)やユベラN(ビタミンE)といった血流改善を目的とした治療を実施することもあります。薬による副作用が少なく安全性の高い治療になります。そのほかに、ウロエースという前立腺肥大の治療薬が使われることもあります。
6. 予後:命の心配はありません
前述の通り、アロペシアX自体が原因で命を落とすことはありません。治療によって毛が生え揃う子もいれば、残念ながらあまり効果が見られない子もいます。いわゆる体質による脱毛であるため原則的に症状は進行していくことになります。しかし、毛がなくてもその子の魅力や元気さは変わりません。
7. 予防:気をつけたい日常のケア
遺伝的な要因が強いため確実な予防法はありません。 しかし、ポメラニアンなどの好発犬種では、バリカンで極端に短く毛を刈る「サマーカット」をきっかけに毛が生えてこなくなること(毛刈後脱毛症)があります。そのため、被毛を短くカットする際はハサミ仕上げにするなどトリマーさんや獣医師によく相談することをおすすめします。
おわりに
「毛が抜けて地肌が黒くなってきた」という姿を見ると飼い主様としてはとてもご不安になると思います。しかし、アロペシアXであれば命に関わることはありません。まずは他の病気が隠れていないかをしっかり検査し、愛犬の性格やご家庭のライフスタイルに合ったお付き合いの方法を、かかりつけの獣医師と一緒に見つけていきましょう。
【皮膚科 セカンドオピニオン外来のご案内】
- 曜日:毎週 月曜日・木曜日
- 診療時間:10:00〜13:00、15:00〜18:00
ハグウェル動物総合病院では、皮膚疾患にお悩みの動物さんとご家族のために、皮膚科専門診療(担当:星野友哉獣医師)によるセカンドオピニオン外来を設けています。
皮膚疾患は「かゆみ」「脱毛」「赤み」など一見似た症状でも、その原因や進行度によって治療法が大きく異なります。アレルギー、感染症、ホルモン疾患、腫瘍など、複数の要因が関与するケースも少なくありません。
そのため当院では、問診・皮膚検査・細胞診・血液検査を活用し、病態を多角的に評価します。そのうえで、専門的な知見に基づき、現在の治療の見直しや新たな選択肢をご提案いたします。
「なかなか良くならない」
「診断や治療方針に不安がある」
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このようなお悩みをお持ちの方に、納得と安心を提供することを大切にしています。
また、当院ではトリミング部門と連携し、薬浴やスキンケアまで一貫したサポートが可能です。治療だけでなく、日常管理まで含めた総合的な皮膚ケアをご提案いたします。
大切なご家族にとって最適な選択ができるよう、ぜひ一度ご相談ください。
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