

【皮膚科専門診療】星野 友哉 獣医師
【担当科目】皮膚科
愛犬や愛猫が耳を痒がったり、頭をブルブルと振ったりする仕草を日常的によく見かけませんか?「ただの耳垢かな」「いつもの外耳炎だろう」と見過ごされがちですが、実はその奥に「中耳炎(ちゅうじえん)」という厄介な病気が潜んでいることがあります。
今回は犬と猫の中耳炎について、なぜ起こるのか、どんな症状が出るのか、そしてどうやって治すのかを、獣医師の視点から詳しく解説します。
目次
1. 疫学:どんな子がかかりやすいの?
中耳炎は犬さんでも猫さんでも発生しますが、特に犬さんに多く見られる病気です。
- 犬さんの場合
慢性的な「外耳炎(鼓膜より外側の炎症)」が悪化して中耳に波及するケースがほとんどです。そのため、外耳炎になりやすい垂れ耳の犬種(コッカー・スパニエル、レトリバーなど)や、アレルギー・アトピー体質の犬さん(フレンチ・ブルドッグ、柴犬など)は特に注意が必要です。また、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのように生まれつき中耳に滲出液が溜まりやすい犬種もいます。
- 猫さんの場合
外耳炎は非常に少ないのですが、耳のポリープ(炎症性ポリープ)や上気道感染(いわゆる猫カゼ)からの波及によって中耳炎を起こすことが知られています。
2. 原因:なぜ中耳炎になるの?
中耳は、鼓膜の奥にある空洞のスペース(鼓室)を指します。ここに炎症が起きる原因は主に以下の通りです。
- 外耳炎の進行(最も多い原因):外耳炎を放置したり、なかなか治らなかったりすると、炎症で鼓膜が破れ、細菌やが中耳に侵入します。
- 耳の中の腫瘍やポリープ:特に猫さんでは中耳から発生したポリープが原因となることが多いです。
- 上気道感染からの波及:鼻や喉の細菌が、耳管(喉と中耳を繋ぐ管)を通って中耳に感染します。人のこどもがのど風邪や鼻かぜから中耳炎になるケースと似ていると考えられています。
3. 症状:こんなサインに要注意!
中耳炎の症状は、初期は外耳炎とよく似ていますが、進行すると神経の症状が出てくるのが特徴です。
- 耳の痛みや不快感:頭を振る、耳の後ろを掻く、耳を触られるのを嫌がる。
- 耳ダレや悪臭:ドロドロとした膿のような耳垢が出たり、強い臭いがしたりします。
- 捻転斜頸(ねんてんしゃけい):首が片方に傾いたままになる症状です。
- 顔面神経麻痺:中耳の近くを通る顔面神経が炎症に巻き込まれると、まばたきができない、唇が垂れ下がる、よだれが出るなどの症状が出ます。
- ホルネル症候群:瞳孔が小さくなる(縮瞳)、瞬膜(第3のまぶた)が飛び出す、まぶたが下がるなどの目の症状が現れます。
獣医師からのアドバイス 「首を傾げている」「目がうまく閉じられない」といった症状が出た場合は、かなり中耳炎が進行しているサインです。様子を見ず、すぐに動物病院を受診してください。
4. 診断:どうやって中耳炎を見つけるの?
中耳は鼓膜の奥にあるため、外から見ただけでは診断が困難です。以下のような検査を組み合わせて診断します。
- 耳鏡検査/オトスコープ(耳道内視鏡)検査:専用のカメラで耳の奥を覗き、鼓膜が破れていないか、腫瘍がないかを確認します。
- 細胞診・細菌培養検査:耳の中の分泌物を採取し、どんな細菌が増殖しているか、どの抗菌薬が効くかを調べます。
- レントゲン検査:CTに比べて精度は低くなりますが、全身麻酔が必要ではないためスクリーニング検査として実施することがあります。中耳を覆う骨(鼓室胞壁)が分厚くなっていないかを確認します。また中耳内に液体が貯留していないかを調べます。
- CT・MRI検査(非常に重要):レントゲンでは限界があるため、中耳の膿の貯留や腫瘍の有無、炎症で骨が溶けている(骨融解)などを正確に評価するにはCTやMRIなどの画像診断が欠かせません。
5. 治療:内科と外科、二つのアプローチ
治療は、原因や進行度によって異なります。
- 内科的治療(お薬での治療)
軽症の場合や手術が難しい場合は、抗菌薬やステロイドなどの内服薬で長期間治療します。同時に、耳の洗浄や点耳薬も使用します。
- 外科的治療(手術や処置)
①オトスコープによる洗浄:全身麻酔下で内視鏡を使い、中耳の中に溜まった膿や汚れを徹底的に洗い流します。
②全耳道切除術および外側鼓室鼓胞切開術(TECA-BO):犬さんの重度で慢性的な外耳炎が原因となっている中耳炎では外科手術が必要となる場合があります。(例)外耳道が石のように硬くなってしまった場合など)外耳道は土管のような構造をしており、外科手術によって土管を取り除き、また中耳の炎症組織を取り除きます。耳の穴がふさがった状態になりますが、いわゆる耳(耳介)は残るため見た目ではわかりません。ぎ、。
③腹側鼓室鼓胞切開術(VBO):主に猫のポリープ治療で行われます。首の下側からアプローチし、中耳のポリープを根本から取り除きます。
6. 予後:治る病気なの?
早期に発見し、適切な治療を行えば予後は比較的良好です。 しかし、発見が遅れ慢性化してしまうと内服薬だけでは完治が難しく、手術が必要になるケースが増えます。また、顔面神経麻痺などの神経症状は中耳炎自体が治っても後遺症として残ってしまうことがあります。
7. 予防:飼い主様にできること
中耳炎を防ぐための一番の近道は「外耳炎を甘く見ないこと」です。
- 定期的な耳のチェック:耳が臭くないか、赤くないか、異常な耳垢がないかを日常的に確認しましょう。
- 適切な耳掃除:綿棒を奥まで突っ込むのは絶対にNGです!汚れを奥に押し込んだり、耳の中を傷つけて外耳炎の悪化を招きます。多くの耳では日常的なケア(綿棒での耳掃除や洗浄液で耳を洗うなど)は不要です。日常的なケアについては正しいやり方を獣医師から教わってください。
- 早期治療と徹底:外耳炎と診断されたら「痒がらなくなったから」と自己判断で治療をやめず、獣医師の指示通りに最後まで治療を完了させることが重要です。
おわりに
中耳炎は、犬猫さんにとって非常に強い痛みや不快感を伴う病気です。「たかが耳の汚れ」と放置せず、少しでもおかしいなと思ったらお早めに動物病院へご相談ください。早期発見・早期治療が愛する家族の快適な毎日を守る一番の鍵となります。
【皮膚科 セカンドオピニオン外来のご案内】
- 曜日:毎週 月曜日・木曜日
- 診療時間:10:00〜13:00、15:00〜18:00
ハグウェル動物総合病院では、皮膚疾患にお悩みの動物さんとご家族のために、皮膚科専門診療(担当:星野友哉獣医師)によるセカンドオピニオン外来を設けています。
皮膚疾患は「かゆみ」「脱毛」「赤み」など一見似た症状でも、その原因や進行度によって治療法が大きく異なります。アレルギー、感染症、ホルモン疾患、腫瘍など、複数の要因が関与するケースも少なくありません。
そのため当院では、問診・皮膚検査・細胞診・血液検査を活用し、病態を多角的に評価します。そのうえで、専門的な知見に基づき、現在の治療の見直しや新たな選択肢をご提案いたします。
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