

【専門診療】中津 院長
【担当科目】総合診療科・神経科・腫瘍科
愛犬がソファーから飛び降りた直後、あるいは愛猫が高いところから着地した瞬間に「キャン!」「ギャー!」と悲鳴を上げ、前足をかばうように歩かなくなった……。 そんな時、最も疑われるのが「橈尺骨骨折(とうしゃっこつこっせつ)」です。
今回は、獣医師の視点からこの骨折の疫学、原因、そして治療や予防法について詳しく解説します。
目次
1. 疫学(どんな子に多いの?)
橈尺骨とは、前足の肘から手首までの間にある2本の骨(橈骨と尺骨)のことです。 この骨折は、特に超小型犬〜小型犬(トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、イタリアン・グレーハウンドなど)に圧倒的に多く見られます。年齢別では、骨がまだ細く成長段階にある1歳未満の子犬での発生が目立ちますが、成犬でも頻発します。
猫さんにおいても発生しますが、犬さんに比べると骨がしなやかで運動能力が高いため、完全室内飼いの猫さんの日常生活において発生する頻度は比較的低いです。猫さんの場合は、高所からの不完全な落下や交通事故などで見られます。
2. 原因(なぜ折れてしまうの?)
大型犬や猫さんでは強い衝撃(交通事故など)が主な原因となりますが、小型犬の場合は「日常の些細な衝撃」で簡単に折れてしまうのが特徴です。
- ソファーやベッド、椅子からのジャンプ
- 飼い主様の腕の中(抱っこ)からの落下
- フローリングなどの滑りやすい床での転倒・急な方向転換
- 階段からの転落
「えっ、こんな低い高さから?」と驚かれる飼い主様も多いですが、小型犬の橈尺骨は割り箸よりも細いことが多く、特定の角度で力が加わると簡単にポキっと折れてしまいます。

3. 症状(どんなサインを出す?)
骨折した直後から、以下のような明確なサインが見られます。
- 激しい痛み:触ろうとすると極端に嫌がり、鳴き声を上げる。
- 挙上(きょじょう):折れた足を地面に着けず、ケンケンするように三本足で歩く。
- 腫れ・変形:前足が不自然な方向に曲がっていたり、プランプランと力なく揺れたりする。手首の上が大きく腫れる。
これらの症状が見られた場合は、無理に触ったり引っ張ったりせず、なるべく患部を動かさないようにして直ちに動物病院を受診してください。
4. 診断(病院では何をする?)
獣医師はまず、視診と触診で痛みの部位や変形の有無を確認します。 その後、確定診断のためにX線(レントゲン)検査を行います。骨折の部位、折れ方(横骨折、斜骨折、粉砕骨折など)、ズレの程度を正確に把握するため、正面と横からの最低2方向から撮影します。
5. 治療(どのように治す?)
橈尺骨骨折の治療には「保存療法(ギプスなど)」と「外科手術」がありますが、現代の獣医療では「外科手術」が第一選択(スタンダード)です。
小型犬の橈骨はもともと血流が乏しく、ギプス固定などの保存療法では骨がくっつかない「癒合不全(ゆごうふぜん)」を起こすリスクが極めて高いためです。
- プレート&スクリュー固定法:金属製のプレートとネジを用いて、折れた骨を直接繋ぎ合わせる最も一般的な方法です。強固に固定できるため、早期の回復が望めます。
- 創外固定法:皮膚の外側にフレームを置き、そこから骨に向かってピンを刺して固定する方法です。粉砕骨折や開放骨折(骨が皮膚を突き破っている状態)などで選択されることがあります。

6. 予後(しっかり治るの?)
適切なタイミングで適切な外科手術を行い、術後の安静が守られれば、予後は一般的に良好であり、再び元気に走り回れるようになります。 しかし、以下のような合併症のリスクもゼロではありません。
- 癒合不全:骨がくっつかない状態。再手術が必要になります。
- 感染症:インプラント(金属)周囲が細菌感染を起こすこと。
- 再骨折:プレートの端など、別の部位に応力がかかって再び折れてしまうこと。
術後は定期的にレントゲン検査を行い、骨の癒合状態を確認しながら、段階的に運動制限を解除していきます。
7. 予防(私たちができること)
骨折を経験した飼い主様の多くが「もっと気をつけていれば…」とご自身を責めてしまいます。不幸な事故を防ぐためには、生活環境の改善が最も重要です。
- 床の滑り止め対策:フローリングには滑りにくいマットやカーペットを敷く。足裏の毛もこまめにカットする。
- 段差の解消:ソファーやベッドにはスロープやペットステップを設置し、ジャンプさせない習慣をつける。
- 抱っこのルール:立って抱っこしている時に暴れると落下の危険があります。床に座って抱っこする、またはしっかりとホールドするよう心がける。
愛犬・愛猫の細く華奢な足を守れるのは、飼い主様の環境作りとちょっとした心がけです。ぜひ今日から、お部屋の安全チェックをしてみてくださいね。
ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制
セカンドオピニオン設置
関節や骨などの症状に対して迅速な対応を行います。
整形疾患に必要な検査として、身体検査、レントゲン検査に加え、症状に応じて神経学的検査(反応・歩様など)、血液検査、CT検査(脳構造評価)、CSF(髄液)検査、を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
特に「手足を上げる」「ケンケンとスキップをする」「足を引きずる」などのケースでは、的確な診断が非常に重要です。
また、外部より整形外科専門の岩田 宗峻 獣医師を設けているため、セカンドオピニオン、さらには繰り返す症状などの受け入れを行っております。

横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
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