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【獣医師コラム】血尿、ぐったり、食欲なし。もしかしたらあの病気かも?

 

【腎泌尿器科診療】室 卓志 獣医師

【担当科目】総合診療科・腎泌尿器科・消化器科

 

― 静かに進行する、腎臓の感染症 ―

腎盂腎炎とは、腎臓の内部構造の一部である「腎盂(じんう)」に細菌感染が生じて炎症を起こす病気です。腎盂は、腎臓で作られた尿を集めて尿管へ送り出す“尿の通り道”であり、この部分に細菌が感染することで炎症が広がり、腎実質(腎臓本体の機能部分)にも影響を及ぼすことがあります。

初期は無症状、あるいは軽度の症状しか見られないこともありますが、進行すると腎不全や全身性の敗血症に発展する危険性もあるため、早期発見と治療が非常に重要です。

原因と発症の仕組み

腎盂腎炎の多くは、膀胱炎や尿道炎といった下部尿路感染から細菌が尿管を通じて逆行性に腎臓へ侵入することで発症します(上行性感染)。

また、全身性の感染症が血流を介して腎臓に波及する「血行性感染」が原因となる場合もありますが、犬猫では頻度は低めです。

主な原因菌には以下のような腸内常在菌が含まれます:

  • 大腸菌(Escherichia coli)

  • プロテウス属(Proteus spp.)

  • クレブシエラ属(Klebsiella spp.)

  • エンテロコッカス属(Enterococcus spp.) など

以下のようなリスク因子があると発症しやすくなります:

  • 慢性の膀胱炎・結石など尿路疾患の既往歴

  • 尿道閉塞や尿管異常(奇形、狭窄など)

  • 長期的な免疫抑制状態(ステロイド、基礎疾患など)

  • カテーテル留置や外科的尿路手術の既往

  • 高齢による防御機能の低下

主な症状

腎盂腎炎の症状は非常に多様で、急性か慢性かによっても異なります。慢性では症状があまり目立たないため、発見が遅れることも少なくありません。

急性腎盂腎炎では:

  • 突然の発熱

  • 食欲不振、元気消失

  • 頻尿や排尿時の痛み

  • 血尿、尿の混濁や悪臭

  • 嘔吐や脱水

  • 腰背部の痛み(触られるのを嫌がる)

慢性腎盂腎炎では:

  • 多飲多尿

  • 軽度の元気・食欲低下

  • 慢性的な体重減少

  • 反復性の膀胱炎

特に高齢の犬猫さんや、慢性腎臓病を抱える動物さんでは、腎盂腎炎の症状が既存の疾患と重なり、発見が遅れがちです。

診断方法

腎盂腎炎の診断は容易ではなく、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。

1. 尿検査

  • 白血球(膿尿)、細菌、蛋白、血尿の有無

  • 尿比重やpHの確認

  • 亜硝酸塩や尿沈渣の評価

2. 尿培養および感受性試験

  • 尿中の細菌を培養し、同定と薬剤感受性(どの抗生剤が効くか)を評価

  • 膀胱穿刺による無菌的採尿が望ましい

  • 腎盂尿の穿刺により、培養により確定診断

3. 血液検査

  • 炎症マーカー(CRPや白血球数など)

  • 腎機能評価(BUN、クレアチニン、SDMA)

  • 電解質バランスの確認

4. 画像診断

  • 腎盂の拡張や近位尿細管の拡張、腎盂脂肪の高エコー化を超音波検査で評価

腎盂拡張の超音波画像

  • 尿路結石や奇形の確認にX線やCTを併用することもあります

治療

治療の中心は抗菌薬の投与です。

抗菌薬治療

  • 尿培養の結果に基づき、感受性のある抗生物質を長期継続投与

  • 投与期間が不十分だと再発や耐性菌の問題が起きやすくなります

補助的治療

  • 点滴による脱水の補正と腎血流の改善

  • 腎機能に配慮した栄養管理(療法食への切り替えなど)

  • 基礎疾患(尿管結石、膀胱炎など)の並行管理

  • 痛みの緩和(必要に応じて鎮痛薬)

腎盂腎炎は治療に長期間を要することが多く、また慢性化しやすいため、治療経過中の再評価と投薬の継続が極めて重要です

再発予防と長期的な管理

治療が完了しても、以下のような管理を行うことが再発予防につながります。

  • 尿検査や超音波検査による定期的なモニタリング

  • 尿路疾患の早期治療(膀胱炎、結石など)

  • 免疫状態や持病(糖尿病、腎臓病など)の適切な管理

  • 排尿習慣の確認(頻尿・失禁の有無、トイレ環境)

特に高齢動物や慢性腎臓病患者では、腎盂腎炎の再発が腎機能低下を加速させることがあるため、定期的なチェックが推奨されます。

おわりに

腎盂腎炎は、急性では命に関わることがあり、慢性では知らぬ間に腎機能を蝕む静かに進行する感染症です。

日頃から尿の様子や飲水量、体調の変化に気を配り、少しでも異変を感じたら早めに動物病院を受診してください。

腎臓の健康を守ることは、動物さんたちの長生きにも直結します。

予防と早期発見・早期治療の大切さを、私たち獣医師はこれからもお伝えし続けていきたいと考えています。

ハグウェル動物総合病院 横浜鶴ヶ峰院の体制

セカンドオピニオン設置

下部尿路疾患の症状に対して迅速に対応し、必要な検査(血液検査・尿検査・レントゲン・超音波・CT検査など)を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。

特に「頻尿」「血尿」「尿が出ない尿閉」などのケースでは、早期の処置が非常に重要です。

また、専門診療の腎泌尿器科(室 卓志獣医師)を設けているため、セカンドオピニオン、さらには重症化した下部尿路疾患や慢性腎臓病など、長期的なケアが必要なケースの受け入れを行っております。

横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。

 

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