

【皮膚科専門診療】星野 友哉 獣医師
【担当科目】皮膚科
愛犬や愛猫を撫でているときに、ふと「あれ?ここだけ毛が抜けている」「フケがたくさん出ている」と気づいたことはありませんか? もしかするとそれは、「皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)」というカビ(真菌)が原因の皮膚病かもしれません。
この病気は動物だけでなく、私たち人間にも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」の一つです。今回は、皮膚糸状菌症の基本から治療、予防までを詳しく解説します。
目次
1. 疫学(どんな子がかかりやすいの?)
皮膚糸状菌症は、年齢や品種を問わず感染する可能性がありますが、特に以下のようなケースでよく見られます。
- 子犬・子猫: 免疫機能がまだ十分に発達していないため、最も感染しやすい年代です。
- 免疫力が低下している子: 高齢、栄養不良、基礎疾患(猫エイズ、猫白血病、ホルモン疾患など)がある、または免疫抑制剤を使用している場合。
- 多頭飼育・保護施設: 密集した環境では、動物同士の接触により急速に蔓延することがあります。
- 特定の猫種: ペルシャやヒマラヤンなどの長毛種の猫さんは、感染リスクが高く、治りにくい傾向があります。
2. 原因(なぜ発症するの?)
原因は「皮膚糸状菌」と呼ばれるカビ(真菌)の仲間です。犬猫さんにおいて最も一般的なのは以下の3種類です。
- Microsporum canis(犬小胞子菌): 犬猫さんの皮膚糸状菌症の大部分(特に猫では90%以上)を占めます。
- Trichophyton mentagrophytes(毛瘡白癬菌): ネズミなどのげっ歯類から感染することが多いです。
- Microsporum gypseum(石膏状小胞子菌): 土壌に生息しており、穴掘りをする犬さんなどで見られます。病変は穴を掘る鼻や足先に多くみられます。
【感染経路】 感染した動物との直接接触や、菌の胞子が付着したブラシ、ベッド、カーペットなどを介した間接接触によって感染します。胞子は環境中で数ヶ月~1年以上も生存できるため、非常に厄介です。
3. 症状(どんなサインに気づくべき?)
症状は個体によって様々ですが、典型的なサインを見逃さないことが大切です。
- 円形脱毛(リングワーム): 境界が赤く、くっきりとした円形の脱毛斑ができるのが特徴です。

- フケ(鱗屑)と かさぶた(痂皮): 脱毛部の周囲にフケやかさぶたが見られます。
- 赤み(紅斑): 皮膚が赤く炎症を起こすことがあります。和猫さんでは赤みがみられることが少なく、洋猫さんでは赤くなりやすい傾向があります。また、犬さんでは一般的に赤み多くみられます。
- かゆみ: 和猫さんではかゆみを生じることが少ない一方で、洋猫さんや犬さんではかゆみがみられることが多いとされています。皮膚糸状菌症単独ではかゆみは少ない(または全くない)ことが多いです。

- 注意!無症候性キャリア 特に猫さんにおいて、感染して菌を持っているのに全く症状が出ない「無症候性キャリア」が存在します。この状態の猫さんが、他の動物や人に菌をうつしてしまうことがあるため注意が必要です。過去の報告で、見た目が健康な猫さんの20%が糸状菌のキャリアになっているとの報告もあるため、感染経路には注意が必要です。
4. 診断(動物病院ではどんな検査をするの?)
皮膚糸状菌症が疑われる場合、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- ウッド灯検査: 暗室で特殊な紫外線ランプ(ウッド灯)を皮膚に当てます。M. canis の一部の株は、リンゴグリーン色に蛍光発光するため、簡易的なスクリーニングとして役立ちます。
- 顕微鏡検査(毛検査): 病変部の毛を抜き、顕微鏡で毛の周囲に付着した真菌の胞子を直接観察します。

黄色〜茶色になっている部分が糸状菌に感染
- 真菌培養検査: 専用の培地(DTM培地など)に毛やフケを置き、カビが生えるかを観察します。最も確実な診断方法ですが、結果が出るまでに1~3週間ほどかかります。
- PCR検査: 最近では真菌のDNAを検出するPCR検査を行うこともあり、培養検査よりも早く結果が出ます。
5. 治療(どうやって治すの?)
カビの治療には根気が必要です。途中で治療をやめてしまうと再発するため、獣医師の指示通りに最後まで治療を続けることが非常に重要です。
- 内服薬(全身療法): イトラコナゾールやテルビナフィンなどの抗真菌薬を数週間~数ヶ月間内服します。最も効果的な治療法です。
- 外用薬・シャンプー(局所療法): 抗真菌成分の入った塗り薬や薬用シャンプー(ミコナゾールやクロルヘキシジン配合など)を使用し、体表の真菌を減らします。
- 毛刈り:毛刈りは皮膚を傷つけ感染を助長するおそれがあり、実は推奨されていません。また毛刈りを行った際に胞子(分節分生子)が広範にまき散らされる可能性もあります。
- 環境の清浄化: これが非常に重要です!抜け毛やフケの中に胞子が潜んでいるため、こまめな掃除機がけと、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤の希釈液)などでの消毒が必要です。
6. 予後(治る病気なの?)
適切な治療と環境の消毒を行えば、基本的には完治する予後良好な病気です。 ただし、治療期間は数週間から、長いと数ヶ月に及ぶこともあります。「毛が生えてきたから」「見た目が綺麗になったから」と自己判断で投薬を中止せず、獣医師の検査で「菌が完全にいなくなった」と確認できるまで治療を継続することが再発を防ぐ鍵です。
7. 予防(防ぐためにはどうすればいい?)
- 新しい動物を迎える際の注意: 特に保護猫やペットショップから新しく子犬・子猫を迎えた際は、先住のペットと接触させる前に、健康診断(皮膚のチェック)を受けましょう。
- 感染動物との接触を避ける: 皮膚病の症状がある動物には近づけないようにしましょう。
- 飼い育環境の衛生管理: ブラシやベッドを定期的に洗い、清潔に保つことが大切です。
- 飼い主様自身の注意: 人にも感染するため(人の場合は赤いリング状の湿疹や水虫のような症状が出ます)、感染したペットを触った後は必ず石鹸で手を洗いましょう。免疫力が落ちている人(子供やお年寄りなど)は、治るまで過度な接触を避けるのが無難です。抗がん剤治療などを行っている場合には原則として接触しないことが推奨されています。
おわりに
皮膚糸状菌症は決して珍しい病気ではありません。特に新しく子犬や子猫をご家族に迎えた際にはブラッシングの時などに皮膚の状態をよく観察してあげてください。もし「フケが多いな」「毛が抜けているな」と感じたら放置せずに早めに動物病院にご相談くださいね。早期発見・早期治療が、ペットも人も健康に過ごすための第一歩です。
【皮膚科 セカンドオピニオン外来のご案内】
- 曜日:毎週 月曜日・木曜日
- 診療時間:10:00〜13:00、15:00〜18:00
ハグウェル動物総合病院では、皮膚疾患にお悩みの動物さんとご家族のために、皮膚科専門診療(担当:星野友哉獣医師)によるセカンドオピニオン外来を設けています。
皮膚疾患は「かゆみ」「脱毛」「赤み」など一見似た症状でも、その原因や進行度によって治療法が大きく異なります。アレルギー、感染症、ホルモン疾患、腫瘍など、複数の要因が関与するケースも少なくありません。
そのため当院では、問診・皮膚検査・細胞診・血液検査を活用し、病態を多角的に評価します。そのうえで、専門的な知見に基づき、現在の治療の見直しや新たな選択肢をご提案いたします。
「なかなか良くならない」
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また、当院ではトリミング部門と連携し、薬浴やスキンケアまで一貫したサポートが可能です。治療だけでなく、日常管理まで含めた総合的な皮膚ケアをご提案いたします。
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横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
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