
繰り返す下痢を、体質と思って放置していませんか。
犬猫さんの下痢や嘔吐は、比較的よくみられる症状です。
一時的な胃腸炎で自然に良くなることもありますが、症状が何週間も続く場合や、良くなったり悪くなったりを繰り返す場合には、より詳しい検査が必要になることがあります。
慢性腸症は、一般に「対症療法に抵抗性または再発性で、3週間以上続く消化器症状を示す病態」として定義され、代表的な症状に下痢、嘔吐、食欲低下、体重減少などがあります。
慢性腸症はひとつの病名というより、腸を中心とした慢性的な炎症や機能異常によって、下痢や嘔吐などが続く状態を示す言葉です。
慢性腸症が何によって引き起こされているかは、検査結果や治療反応によって分類されます。
今回は、犬猫さんの慢性腸症について、どのような病気なのか、どんな症状がみられるのか、どのように検査や治療を進めるのかを解説します。
目次
慢性腸症とは
慢性腸症とは、犬猫さんで下痢、嘔吐、食欲低下、体重減少などの消化器症状が長く続く状態を示す言葉です。一般には症状が3週間以上続く場合に慢性と考えます。ひとことで「慢性腸症」といっても、実際には原因や重症度はさまざまで、食事反応性のものから、重度の炎症やたんぱくの漏出を伴うものまで幅があります。
以前は「炎症性腸疾患(IBD)」という言葉が広く使われていましたが、現在はそれより広い概念として慢性腸症が用いられることが多くなっています。これは、慢性的な腸の不調の中には、食餌変更で改善するケースや、腸内細菌叢への対応が有効なケース、免疫抑制治療が必要なケースなどが含まれるためです。
どんな症状がみられるの?
慢性腸症では、次のような症状がみられることがあります。
- 下痢が続く
- 軟便が長引く
- 嘔吐を繰り返す
- 食欲が落ちる
- 体重が減る
- お腹がなる
- 元気がない
- 毛艶が悪くなる
- 便の回数が増える
- 血便や粘液弁が見られることがある
また、重症の場合は蛋白漏出性腸症となり、腹水やむくみ、著しい元気消失を示すことがあります。
こうした症例では、より慎重な評価と集中的な治療が必要になります。
どんな原因や病変が考えられるか
慢性腸症の背景には、腸の粘膜に慢性的な炎症が起きていることがあります。
ただし、その原因はひとつではなく、食餌成分への反応、腸内細菌叢の乱れ、免疫の異常など、複数の要素が関わっていると考えられます。治療反応性による分類は実際の診療では重要で、食餌変更や腸内環境への介入、免疫抑制治療などが段階的に選択されます。
また、慢性下痢や慢性嘔吐の背景には、慢性腸症以外の病気が隠れていることがあります。
たとえば、寄生虫疾患、慢性感染症、膵外分泌不全、膵炎、肝胆道疾患、異物、腫瘍などでも似た症状が出るため、慢性腸症と決めつける前にこれらを除外することが大切です。
膵外分泌不全や慢性小腸疾患は、どちらも体重減少や慢性下痢の原因になり得ます。
猫さんでは、慢性腸症に加えて、膵炎と胆管肝炎が同時に関わる、いわゆる三臓器炎が問題になることもあります。
犬さんと猫さんでの違い
犬さんの場合
慢性腸症は比較的良くみられる慢性消化器疾患のひとつで、食餌療法にしっかり反応するタイプも少なくりません。一方で、低アルブミン血症を伴う蛋白漏出性腸症では予後に注意が必要で、重症度に応じた治療強化が必要になります。
猫さんの場合
慢性腸症と消化管リンパ腫の鑑別が大きな課題です。症状や超音波所見が似ることもあるため、確定のために内視鏡生検や病理評価が必要になることがあります。そのため、猫さんで慢性の体重減少や食欲低下、嘔吐、軟便が続く場合には、「少しお腹が弱いだけ」と考えず、早めの評価が大切です。
動物病院で行う検査
慢性腸症の診断は、ひとつの検査で確定するものではありません。
まずは問診、身体検査、便検査、血液検査、画像検査などを行い、ほかの病気を除外しながら進めます。また、食事歴の確認もとても重要です。
血液検査では、炎症、低アルブミン、肝臓・胆嚢などの異常がないかを確認します。必要に応じて、膵外分泌不全や膵炎を疑う場合もあり、そのための検査を追加することもあります。
超音波検査では、腸壁の厚さや層構造、リンパ節の状態、他の腹腔内臓器の異常を確認します。
さらに、症状が長引く場合や、組織学的な確認が必要な場合は、内視鏡検査で粘膜を観察し、生検を行うことがあります。
治療はどうする?
慢性腸症の治療は、症状だけを抑えるのではなく、どのタイプの慢性腸症かを見極めながら進めることが大切です。実際には、食餌療法、腸内環境への介入、抗炎症・免疫抑制治療などを段階的に検討します。
まず重要になることが多いのが食餌療法です。
低脂肪食といった消化管への刺激を減らした療法食で改善するケースがあります。
また、食餌反応性の慢性腸症では、加水分解食や新奇タンパク食などで改善することもあります。
次に腸内環境の調整が役立つことがあります。
近年は、腸内細菌叢への乱れへの対応として、プロバイオティクスなどが検討される場面もあります。
一方で、抗菌薬については漠然と使うのではなく、必要性をよく見極めることが重要です。
食餌や補助的な治療で十分な改善が得られない場合は、ステロイドなどの免疫抑制治療を検討します。
ご家庭で気をつけたいこと
慢性の下痢や嘔吐があるとき、症状の記録がとても役立ちます。
便の回数、形、色、血液や粘液の有無、吐いた回数、食欲、体重の変化などをメモや写真で記録しておくと、診断の助けになります。
食餌内容やおやつ、サプリメント、拾い食いの有無も大切な情報です。
栄養評価と詳細な食事歴は、慢性の消化器症状の診療で重要な要素です。
また、自己判断で食餌や薬を何度も変えてしまうと、かえって経過がわかりにくくなることがあります。
長引く症状がある場合は、早めに相談し、検査や治療の方針を整理ながら進めることが大切です。
まとめ
犬猫さんの慢性腸症は、3週間以上続く下痢、嘔吐、食欲低下、体重減少などの背景にある慢性的な消化器の病態です。原因や重症度はさまざまで、食餌療法で改善するタイプもあれば、内視鏡や生検が必要になるタイプ、免疫抑制剤が必要になるタイプもあります。
特に、症状が長引く、体重が減る、元気がない、血便がある、低栄養が心配といった場合には、早めの受診をおすすめします。
慢性の消化器症状は「体質かな」と見過ごされてしまうこともありますが、適切な検査と治療で改善が期待できるケースも少なくありません。
「下痢や嘔吐が続くけど、何が原因かわからない」
「食事を変えてもすっきりしない」
そのようなときはどうぞご相談ください。症状や経過に応じて、必要な検査とその子に合った治療をご提案させていただきます。
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