
【循環器診療】森山 寛大
【担当科目】総合診療科・循環器科
【循環器診療】佐藤 貴紀
【担当科目】総合診療科・循環器科・栄養管理科
拡張型心筋症(DCM:Dilated Cardiomyopathy)は、心臓の筋肉(心筋)が薄く弱くなり、心臓が大きく拡張してしまう病気です。
その結果、十分なポンプ機能が保てなくなり、全身に血液を送り出す力が低下します。
特に
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犬さん:中~大型犬に多い代表的な心筋疾患
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猫さん:肥大型心筋症(HCM)が主流で、DCMはまれ(ただし食事性DCMが問題になることも)
という特徴があります。
なぜ心筋が弱くなるの?原因と仕組み
犬さんと猫さんで背景が異なるため分けて解説します。
犬さんの場合
主な原因
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遺伝(家族性)
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ドーベルマン、ボクサー、グレートデーン、ニューファンドランドなどで特に多い
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遺伝性の心筋異常 → 徐々に心筋の収縮力が低下
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食事性(栄養バランス異常)
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タウリン不足、カルニチン不足
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グレインフリー食との関連が議論された(確定ではないが注意が必要)
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二次性
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心筋炎(感染・免疫関連)
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甲状腺機能低下症
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どのように病気が進行する?
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心筋が薄くなる → 心室が拡張 → 収縮力低下
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代償的に心拍数増加やホルモン活性化
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最終的には
心不全(肺水腫、腹水)・不整脈・突然死に繋がることがあります
猫さんの場合
猫さんの心筋症の95%以上は肥大型心筋症(HCM)であり、DCMは以下のケースで見られます。また、肥大型心筋症が進行すると拡張型心筋症のような心臓(拡張相肥大型心筋症)になることもあります。
主な原因
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タウリン不足
今は市販フードが改善されたためほとんど見られませんが、手作り食・特殊なフードで起こることがある。 -
中毒・炎症・代謝異常による二次性心筋障害
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心筋炎
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全身性の重大疾患
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特定薬剤の影響
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どのように病気が進行する?
犬さんと同様、心室が拡張し収縮力が落ちる → 心不全、血栓症リスク増加へ。
どんな症状が見られる?
特に初期は無症状のことも多く、厄介な病気です。
犬さんで見られる症状
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咳が増える
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運動を嫌がる、疲れやすい
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呼吸が速い・浅い
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食欲低下
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失神・突然倒れる
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お腹が膨れる(腹水)
特にドーベルマンの突然死はDCMに関連することが多いとされています。
猫さんで見られる症状
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呼吸数増加(安静時でも30〜/分以上)
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ぐったりする、食欲低下
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寝ている時間が増える
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下半身が急に動かない(血栓症)
猫は咳が出ないことが多いため、呼吸数の増加や動きの変化が重要なサインになります。
診断方法
心筋症は「画像・検査の総合判断」が基本です。
① 胸部レントゲン
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心臓の拡大
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肺水腫の有無を確認
② 心臓超音波検査(エコー)
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左心室の拡張時と収縮時の左室内径短縮率(左心室が拡張期から収縮期にかけてどれくらい縮むかを示す指標)→ DCMの確定に最も重要
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心房の拡大
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并逆流の程度
- EPSS:僧帽弁前尖の拡張早期最大開口点(Eポイント)と心室中隔壁の間の距離を測定した値
③ 心電図・ホルター心電図
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不整脈(特に犬の心室性期外収縮)を評価
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24時間ホルターは突然死リスクの評価に必須
④ 血液検査(NT-proBNP,トロポニン)
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心筋ストレスやダメージの定量化に有用
治療方法
治療は「心不全のコントロール」と「進行の抑制」が柱になります。
犬さんの治療
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ピモベンダン(強心薬)→ 収縮力を改善、寿命延長のエビデンス多数
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ACE阻害薬(エナラプリル/ベナゼプリル)
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利尿薬(フロセミド、トラセミド)
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抗不整脈薬(ソタロール、メキシレチン等)
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タウリン/カルニチン補給(必要時)
猫さんの治療
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ACE阻害薬
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利尿薬
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ピモベンダン(DCM様病態では有効例あり)
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タウリン補給(不足時)
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抗血栓薬(クロピドグレル):血栓症予防が必須
ご家庭で気をつけるポイント
✔ 呼吸数のチェック(最重要)
安静時呼吸数:犬20〜30/分、猫25〜30/分→ 増えていればすぐ受診
✔ 運動制限
激しい運動は心臓への負担になることも。
✔ 塩分の高い食事を控える
おやつ・ヒト用食材に注意。
✔ 体重管理
肥満は心臓病を悪化させます。
✔ 定期的な心臓検査
大型犬・高リスク犬種は特に推奨。
まとめ
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DCMは犬では一般的、猫ではまれだが注意すべき心筋症です
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心筋が弱くなり心臓が拡張、ポンプ機能が低下する病気です
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早期は無症状が多く、気づいたときには進行していることもあります
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エコー・ホルター心電図・血液検査で総合的に診断します
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治療は強心薬・利尿薬・血管拡張薬などを組み合わせます
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猫では血栓予防が特に重要
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早期発見と継続的なケアが、生活の質と寿命を大きく変える
ハグウェル動物総合病院の体制
セカンドオピニオン設置
今回の咳か、くしゃみか、逆くしゃみかの判断がわからないケースなど、的確な診断が必要な場合は、ハグウェル動物総合病院の循環器科をご予約ください。症状に対して迅速な対応を行います。
必要な検査として身体検査、血液検査、心エコー検査、レントゲン検査、心電図検査、血圧検査などを実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
早期発見をしながら、どのタイミングで、どの投薬が望ましいのか、循環器認定医としっかり相談し決定することをお勧めいたします。
また、専門診療の循環器科(森山 寛大 獣医師・佐藤 貴紀 獣医師)を設けているため、セカンドオピニオンの受け入れも行っております。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
ご予約・ご相談はお気軽に!
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