

【腎泌尿器科診療】室 卓志 獣医師
【担当科目】総合診療科・腎泌尿器科・消化器科
急性腎障害(AKI:Acute Kidney Injury)は、腎臓が数時間〜数日のうちに急激にダメージを受け、
老廃物を排出できなくなる命に関わる疾患です。原因の中でも特に恐ろしいのが「中毒性腎障害」。
一度に少量でも腎臓の細胞を破壊してしまう毒性物質は多く、“知らずに触れただけ・舐めただけ”で重度の腎不全を起こすこともあります。
目次
中毒性急性腎障害の主な原因
① ユリ中毒(猫さんに最も危険)
猫さんにとってユリ科植物は極めて強い腎毒性を持ちます。他に、チューリップやヒヤシンスなどの観賞用植物も含まれる。
花粉・葉・茎・水・花瓶の水、どの部分にも毒があり、1〜2枚の葉を舐めただけで致命的な腎障害を起こすことがあります。
ユリの中毒物質は、尿細管上皮を直接障害することで、広範性急性尿細管壊死を起こすことが知られている。
発症までの経過:
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数時間後:嘔吐やぐったりしてきます
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12〜24時間後:尿量減少し、脱水を起こします
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1〜2日後:無尿・けいれん・昏睡などがみられ重篤な状態です
治療:
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摂取後すぐなら催吐処置・活性炭投与により毒素の吸収を減らすことができます
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早期からの輸液療法(点滴)で毒素排出を促進できます
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重度では血液透析を検討することもあります
② エチレングリコール(不凍液)
冬場に車のラジエーター液や凍結防止剤に使われるエチレングリコールは、犬さん猫さんともに非常に強い腎毒性を持ちます。発生状況からも中毒の中では高い割合で中毒を起こしています。
甘い味がするため、動物さんが舐めてしまう事故が多発しています。
作用機序:
体内で代謝されると「シュウ酸」が生成され、
腎臓内にシュウ酸カルシウム結晶を形成 → 尿細管を破壊 → 急性腎不全となります。
症状:
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1〜2時間以内:嘔吐、運動失調になります
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12時間後〜:無尿、昏睡、けいれんとなり重篤となります。
治療:
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早期であれば解毒剤により、治療を施します
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大量輸液+透析治療による代謝物排出を促します
③ 薬物(NSAIDs:非ステロイド系消炎鎮痛薬)中毒
人用の鎮痛剤(イブプロフェン、ナプロキセン、アスピリンなど)や、誤投薬・過量投与による中毒が報告されています。このほかの薬剤でも、アミノグリコシド系抗菌やニューキノロン系、セフェム系、ヨード系造影剤によっても腎臓への悪影響が報告されている。
作用機序:
腎臓の血流を維持するプロスタグランジンの産生を阻害し、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系による腎血管収縮が優位となり腎血流量が減少し、腎臓への障害が生じる。
症状:
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嘔吐・下痢・食欲低下が見られる
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腹痛、腎性多尿、脱水などが見られる
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重度では尿閉・急性腎不全による死の危険性がある
治療:
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活性炭で吸着し毒素の吸収を阻害します
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輸液により血流をサポートします
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腎保護薬(ACE阻害薬など)を併用する場合もあります
④ ブドウ・レーズン中毒(犬さんのみ)
人間に安全でも、犬には腎毒性を持つ食品です。果実、皮、種、搾りかすなど、どの成分にも中毒物質が含まれてますが、詳細は未解明です。ブドウ中毒による死亡率は50%であったという報告もあります。
症状:
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数時間後:嘔吐・下痢などを起こします
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1日以内:尿が出ない、腎数値上昇が見られ状態が悪いです
治療:
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摂取直後:催吐・活性炭・点滴を行います
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重度:透析や集中的な輸液治療を行います
まとめ
他にも中毒を引き起こす成分はいくつかありますが、今回は主要なものを記述しております
中毒性腎障害は「摂取後どれだけ早く治療できたか」で生存率が大きく変わります。特にユリ中毒とエチレングリコール中毒は数時間以内の対応が生死を分けます。
一方で、適切な輸液治療と早期診断ができれば、数日〜数週間で腎機能が回復するケースもあります。
ほんの少しのユリや薬でも命に関わることを知っておくことが、動物さんの命を守る第一歩なのです。
セカンドオピニオン設置
下部尿路疾患の症状に対して迅速に対応し、必要な検査(血液検査・尿検査・レントゲン・超音波・CT検査など)を実施して、原因を特定し適切な治療を行います。
特に「頻尿」「血尿」「尿が出ない尿閉」などのケースでは、早期の処置が非常に重要です。
また、専門診療の腎泌尿器科(室 卓志獣医師)を設けているため、セカンドオピニオン、さらには重症化した下部尿路疾患や慢性腎臓病など、長期的なケアが必要なケースの受け入れを行っております。
横浜市から川崎・大和エリアまで、地域の皆さまの“かかりつけ”として、安心の獣医療をお届けします。
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