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なぜ犬さんに狂犬病ワクチンが必要なのか?〜人獣共通感染症としてのリスクと日本の防疫体制〜
狂犬病は、Rabiesウイルス(リッサウイルス属)による人獣共通感染症(Zoonosis)で、感染後に発症するとほぼ100%致死的です。日本では1957年を最後に国内感染は確認されていませんが、世界では年間約5.5万人が死亡(WHO, 2023)しており、その99%が犬さんからの感染によるものです。
【感染経路と発症メカニズム】
感染動物(多くは犬さん、コウモリなど)に咬まれることで、ウイルスが唾液中から体内へ侵入します。
ウイルスは末梢神経を通じて中枢神経系に到達し、脳炎を引き起こすのです。
【主な症状】
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前駆期(1〜3日)
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発熱、倦怠感(だるさ)、咬傷部位の痛みや異常な感覚(刺すような痛みやかゆみ)
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急性神経症状期
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狂躁(きょうそう)型(約80%):興奮、不安、不眠、幻覚、嚥下困難、水を怖がる(恐水症)、音や風に対して過敏(恐風症)の症状が出ます
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麻痺型(約20%):四肢麻痺や呼吸筋麻痺に進行します
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昏睡・死期
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意識障害、呼吸停止などにより多くは数日〜1週間で死亡
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【人での日本国内持ち込み例】詳細はこちら
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2006年(フィリピンから帰国した男性2名)
→ 狂犬病を発症。国内で死亡(約30年ぶりの報告)
→ 咬傷時に適切な曝露後ワクチン(PEP)を受けていなかったことが致命的になった -
2020年(フィリピン渡航歴のある患者)
→ 渡航中に犬さんに咬まれた後、日本で発症し死亡しています
これらの事例から、「日本国内で感染しなくても、海外から帰国後に発症することがある」という重要な教訓が得られています。
【なぜ犬さんへのワクチンが必要か】
日本が清浄国である背景には、以下の防疫体制が大きく関与しています:
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犬さんへの年1回の狂犬病予防接種の義務化(狂犬病予防法)
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厳格な動物の検疫制度(輸入犬にはワクチン・抗体検査・待機期間あり)
しかし、不法輸入や違法ブリーディング、接種率の低下が起これば、いつ再導入されてもおかしくありません。人間の予防は難しいため、動物さん側での封じ込めが最も重要です。
また、
犬さん以外からの狂犬病(WHO)
アメリカ大陸では犬媒介性狂犬病はほぼ制御されていますが、現在では吸血性コウモリが人間の狂犬病の主な感染源となっています。コウモリ媒介性狂犬病は、オーストラリアや西ヨーロッパの一部でも新たな公衆衛生上の脅威となっています。
参照:令和6年度動物由来感染症対策技術研修会 狂犬病を取り巻く内外の現況 大分大学医学部微生物学 大分大学グローカル感染症研究センター 西園 晃
まとめ
このように、犬さんから感染してしまう可能性が高いことが文献からも読み取れます。諸外国を見てもコウモリやネコ、サルなどが感染源になっている事例も存在します。近年は海外からの輸入動物や、海外渡航者が感染する例もあり、安心しきるのは危険。日本の安全を守るには、ひとりひとりの予防接種が欠かせません。
現時点で日本での義務は犬さんのみ接種となっていることからも、新型コロナウィルス感染症のようなパンデミックを起こさなに為に、飼い主様が責任を持って接種させていただけることをお勧めいたします。愛犬を守ることは、私たちの暮らし全体を守ることにつながります。